『ツバキ文具店
』を読み終えたばかりの僕がこんな素敵な手紙に出会うなんて、何かの巡り合わせを感じずにはいられません。
となれば、もう書くしかないでしょう。
さて、唐突な入り方をしましたが、本日は昭和レコード“第三の男”…
ZORNの6thアルバムとなる『生活日和』に収録されている、
「Letter」
という曲について書いていきたいと思います。
久しぶりのアーティスト紹介でもあるので、ゆっくり読んでいってくださいね。
まず始めに、僕がZORNくんを初めて知ったのは、おそらく大多数の方と同じくこの曲からです。
ZONE THE DARKNESS /『奮エテ眠レ』 /pro. Michita | YouTube
ZORNくんがまだ、ZONE THE DARKNESS名義で活動してたときですね。
フリースタイルが上手いラッパーって、音源だとイマイチだったりすることが多いんですが、ZONE THE DARKNESSに関してはそれが一切なかったので、
(若いのにスゲーな…)
と思っていました。
ただ、昭和レコードへの加入が決まったときには、
(いやいや…まだ般若とSHINGO☆西成のレベルには達してないでしょ?)
と、正直疑問を感じたのは事実です。
しかしながら、それはとんだ杞憂だったとすぐ気付かされることになります。
ZONE THE DARKNESSからZORNへと名を変えた彼は、アルバムリリースごとにそのスタイルをアップデートさせ、瞬く間に人気ラッパーへの階段を駆け上がっていったのです。
僕は懐古厨ではないので、初期と比べてラップのスタイルが変わることに対して、あまり抵抗を感じることはありません。
ZORNくんがKendrick Lamarのラップスタイルを取り入れたときなんか、めちゃくちゃ感心しましたもんね。
【Official Music Video】ZORN / 葛飾ラップソディー feat.WEEDY / from the album The Downtown (P)2015昭和レコード | YouTube
ZORNくんのラップの特徴として、
“タイトな押韻にもかかわらず、ストーリーテリング能力がとても高い”
ということが挙げられます。
(押韻を優先しすぎて話が意味不明やん…)
と感じることが、曲を聴いていても全くありません。
また、パンチライン製造能力にも非常に長けていると言えます。
【Official Music Video】ZORN / My life (Prod. by DJ OKAWARI) from the album The Downtown (P)2015昭和レコード | YouTube
「My life」の曲中に出てくるワンフレーズ、
“洗濯物干すのもヒップホップ”
は、僕自身も家庭を持って、遊びにもあまり自由に出れなくなってきた中で、そのことを否定的に考えるのではなく、肯定的に捉えなおすきっかけをくれました。
以後、休日に洗濯物を干しているときには、必ず頭の中でこの曲が流れています。
では、前フリが思いのほか長くなってしまったので、そろそろ本題に入っていきましょう。
読者様の中にも知っている方、知らない方がいると思いますが…
UR DRESSING ROOMのサイト内には、
“ITUNES STORE HIP HOP TOP10 ALBUM”
というタイトルで、iTunes Storeでのダウンロード回数(日本国内での集計)が多いヒップホップアルバムを、ランキング形式で表示させています。
これは、僕自身がサイトの更新作業をしながらチャートアクションをチェックできるように置いてあるんですが…
冒頭お伝えしたZORNくんの6thアルバム『生活日和』は、10月後半のリリース時から現在に至るまで、ずっと10位圏内に入り続けていたんです。
当然、サイト更新作業のたび目にするので、気になってはいたんですが、アルバム購入…
とまではいかず、ここまできていました。
しかし、先日Youtubeにアップされたこの曲を聴いた瞬間、
(あ、これは買わなあかんやつや…)
となり、僕はすぐさまAmazonでポチりましたよ。
大変お待たせしましたが、それでは、皆さんにも聴いていただきましょう。
【Official Music Video】ZORN / Letter (Prod.by EVISBEATS & Kazuhiko Maeda) ℗2016 昭和レコード | YouTube
曲のタイトルに「Letter」とつけられている通り、この曲は、ZORNくんが自身の2人の娘さんたちに宛てた手紙になります。
僕もこの曲を聴いて初めて知ったのですが、ZORNくんは娘さんたちと直接血が繋がっているわけではなかったんですね。
そんなZORNくんが、娘さんたちと関わり合っていく中で、いわゆる、
“あかの他人のオジサン”
から“友達”になり、そして“パパ”と呼ばれるまでの過程…
そして、そのパパとしての目線から、大切な2人の娘さんたちを想う気持ちを、実際の手紙を書くように丹念に綴っています。
1バース目は、娘さんたちとの出会いから、初めて「パパ」と呼ばれるまでの出来事を書いてますね。
バースの最後を、
“初めてパパと呼ばれた日”
という一節で締めるんですが、この一節をラップする際の声のトーンが本当に秀逸です。
娘さんたちからパパと呼ばれるまでの2年間に、ZORNくんが感じた葛藤や苦悩、そして、初めてパパと呼ばれた瞬間の驚きと感動、安堵や充足感…
そういったものが、本当に声から滲み出ています。
リリックで細かく描写せずとも、発声だけでここまで意味を含ませることができるラッパーが、はたして現在何人いるでしょうか?
続く2バース目は、娘さんたちと生活を共にする中での、ZORNくん自身の成長が書かれています。
“印鑑だけじゃない責任感
この背中におんぶして知った”
という一節が、後半の、
“お前らの成長は俺らの成長
育ててるようで育てられてるよ”
へと綺麗に繋がっていますね。
フックのあとに8小節挟むと、3バース目が始まります。
このバースは、娘さんたちがこれから成長して思春期を迎え、そしていつか巣立っていく日のことを想像して書かれています。
バースのラスト、
“いつかドレスを着る日が来たって
どんな男もお前らにゃ見合わねぇ”
という言葉に、ZORNくんのパパとしての自負と、娘さんたちに対する深い愛情を感じずにはいられません。
そんな3バース目が終わるとブリッジに入るのですが、このブリッジが僕は意外と好きなんですよね。
“Dear my girl 手紙を書く
いくつになったか知らないが
Dear my girl 俺なりのLove
ビーツにライムで願いを託す”
ここは僕自身の勝手な解釈なんですが、
“いくつになったか知らないが”
というのは、ZORNくんが今の娘さんたちの年齢を知らない…
というわけでは決してないと思うんですよね。
そうではなく、娘さんたちが将来、
“この手紙の意味を知る年齢”
を迎えたときのことを指しているんだと思います。
それがいくつになるのかはわからないけれど、そのときにはもしかすると、娘さんたちも思春期で、自分との距離が一気に離れてしまっているのかもしれない…
逆に、自分自身が照れくさくて、面と向かって娘さんたちに素直な感情を伝えることが難しくなっているのかもしれない…
だからこそ、そんな日がいつきてもいいように、娘さんたちがまだ幼くて、手紙の意味もあまりわからないであろう今のうちに、
「パパはこんな風にお前たちのことを想ってるんだぜ」
ということを予め残しておくという、愛らしいパパの一面が垣間見えました。
そして、ブリッジからフックを終えると、いよいよ手紙も最終の4バース目に入ります。
これまで送ってきた娘さんたちとの生活の集大成が書かれたこのバースは、締めのパンチラインに全ての想いが集約されています。
“お前らが生まれた日は知らない
でも過ごした時間は血よりも濃い”
MVには、歌い終えてブースから出たあと、何かを確かめるように何度も頷き、満足気な笑顔で振り返るZORNくんの姿が映し出されています。
彼にとって先の言葉は、大きくなった娘さんたちがいつか読むであろうこの手紙の、大事な封蝋の役割を果たしているのかもしれませんね。
さてさて…
ここまでZORNくんを中心に「Letter」について書いてきましたが、お聴きいただければわかる通り、この曲はトラックもまた秀逸なんです。
田我流をフィーチャーした「ゆれる」が既にクラシックとなっているEVISBEATSがトラックを担当。
この手紙を書くためだけにあつらえられたEVISBEATSのトラックは、ZORNくんが紡いだ言葉たちを、更に特別なものにしていると思います。
僕自身、これまで父親が子供に対する想いを綴ったヒップホップの曲では、Eminemの「When I’m Gone」が断トツで好きだったんですが、それに匹敵するぐらい、今回の「Letter」は自分にとって大切な1曲になりました。
そんな珠玉の1曲となる「Letter」も収録されたZORNくんの6thアルバム、
『生活日和』
は、現在絶賛発売中でございます。
TOWER RECORDS ONLINEでZORNの『生活日和』を探す
発売日:2016年10月26日(水)
価格:2,500円(税込)
品番:SHWR-0045
『生活日和』収録曲:
01. Life Size / Track by Estra
02. マイペース / Track by Estra
03. DIY / Track by dubby bunny
04. Brand New Day / Track by DJ OKAWARI
05. コインランドリー(Interlude) / Track by dubby bunny
06. 夕方ノスタルジー feat. WEEDY / Track by dubby bunny
07. スイミー / Track by A-KAY
08. ワンシーン / Track by Yakkle
09. グッナイ(Interlude) / Track by OMSB
10. 雨ニモマケズ / Track by OMSB
11. シャウエッセン / Track by A-KAY
12. Letter / Track by EVISBEATS
おそらく週明けには僕の手元にも届くと思うので、今から楽しみで仕方ありません。
ヒップホップって、極端な話、言葉オンリーなので、いざそれを武器として使ったときには、実際に暴力や殺人が起こってしまったりするぐらい、攻撃性・凶暴性を秘めた音楽だと思っています。
でもだからこそ、逆に大切な想いを言葉に乗せたときには、ここまでストレートに相手へ届く…
力強く響く音楽なんだなと、改めて感じました。
正直、この記事を書き始めたときには、1曲に対してここまで書くことになるとは思いもよりませんでしたが、やっぱり好きなアーティストについて書くのであれば、とことん筆がノリますね(笑)
ちなみに、今回の記事を書くにあたって事前に読んだ、ZORNくんのAbemaTIMESでのインタビュー内容もすごく面白かったので、興味のある方は是非読んでみてください。
父親そしてラッパーとして生きるZORNが語った最新作『生活日和』
最後の最後に、インタビュアーもビックリのとっておきの秘密が暴露されています(笑)
それでは、本日はこのへんで。
またねー。